朝食を抜く
これぞ不健康な体を健康体に根本から変える、最重要ポイントである。
「ええ? 朝食を抜くなんて、不健康の最たるものじゃないか」
そう思われる方がほとんどであろう。むりもない。
朝食を抜くのは体に悪いという俗信は、現代では不変の真理のようになっている。あたかもガリレオの時代の天動説のようなものだ。
「私は朝食を食べていません」などと言おうものなら、「どこか悪いの?」とけげんな顔で心配されるのがオチである。
だが、朝食抜きの生活を1週間続けてみてほしい。それで分かる。朝食ほど体に悪いものはなかったと。
朝食を抜けば、朝起きるときや、日中の原因不明の疲れはウソのように解消する。
論より証拠。まずは実践して、体調が驚くほど改善されることを体験してもらえばすぐに分かることであるが、やる気を起こしていただくためにも、そのメカニズムを紹介しよう。
ひとことで言えばこうだ。人間の体が食事を完全に消化吸収、排泄し終えるまで、18時間かかる。だから1日に1度、食事の間隔をこの18時間ぶんあけないといけない。そうしないと内蔵は24時間つねに活動し続けることになるのだ。
1日だけで見ればたいしたことはないように思えるが、1日に1度も内蔵を休めない人は、死ぬまで内蔵を休めない人である。
逆に、1日に1度、必ずこの間隔をあけている人は、毎日体を休めていることになる。死ぬまで体を休めない人と、毎日休めている人。その体力差は自明であろう。寿命にも大きく影響する。
詳しく説明しよう。
夜6時に夕食をとったとする。ふつう次の食事は翌日の朝6時から7時ごろの朝食になるだろう。
だがこれでは、まだ12~3時間しかたっておらず、体は排泄処理の真っ最中である。なのに次の食事が入ってきてしまう。
体が排泄に全力をあげなければならない時間に、もう次の消化吸収を始めなければならなくなるのだ。
体にしてみれば、「ちょっと待ってくれ」と言いたいところだ。食欲がないのは、当然である。
夜6時に夕食をとったときに、次に食事をとるべき適正な時間はいつか。
それはずばり、18時間後の、翌日昼12時以降なのだ。
この時間まで食事をとらなければ、1日に1回、排泄は完全に行われ、内臓は充分な休養を取ることができる。
これを数日実践したなら、あなたはここ数年、あるいは数十年味わったことのない、体の爽快感を知ることになるだろう。体も心も軽い、じつに心地よい感覚である。
われわれがものを食べるときは、食べたいと思ったものを気軽に口に入れて数回噛んで飲み込むだけだが、そのあと体はじつにけなげに働き、この異物を体に取り込む努力をする。胃腸はもちろんのこと、特に肝臓がフル回転する。栄養を貯蔵したり分解したり合成したり毒素の処理もする。使い古した栄養は腎臓が回収して体外に捨てる。ほかにもあらゆる臓器が一丸となってこの新しく入ってきたエネルギー源の処理にかかる。このように内臓をフル回転させる、非常に体に負担をかける行為が食べるということなのである。
しかも、これから少しずつ述べていくが、現代の食生活は消化吸収が大変に困難で、とくに肝臓を著しく酷使する。肝臓の疲れは、ただちに全身の疲れとなって現れる。
1日に18時間、何も食べない時間を作ることがいかに重要か分かるであろう。
それには、朝食を抜くのがベストのタイミングなのである。
朝食を抜けば、時間もお金も節約できるというメリットもある。それでいて信じられないような健康体が手に入るのだから、いつも疲れているという人は今日にも始めるべきである。健康な人が実践すれば、ますます健康になることは言うまでもない。
いきなり朝食を抜くのが不安であれば、段階的にして、まずは量を減らしていくとよい。おかずを減らし、みそ汁をなくし、ごはんに梅干し程度にする。そして最後は1杯のおかゆにし、ついには朝食をやめてしまうのだ。
もちろん、できる人はいきなりパッとやめてしまってかまわない。
晴れて朝食をやめたあとも、口さみしいときや昼食・夕食の質に不安があるときは野菜ジュース1杯(180ミリリットル)を飲んでもよい。
最終的には、起きてからお昼まで水以外口にしないようにするのだ。
最初はおなかがすいて、ふらつく人もいるが、早い人は2、3日、ふつうは1週間以内でふらつきはなくなり空腹感もなくなる。(高齢者は1~2ヵ月を要する。)
そしてふらつくどころか、いままでどこにあったのかと思うようなみずみずしいエネルギーが体の底からわき出してくるようになる。
あなたは、朝食を本当においしいと思って食べているであろうか。
起きたばかりで眠い。食欲はない。したがって味も分からない。それどころか、そもそも味わっている時間がない。なのになぜ、来る日も来る日も朝食をとっているのだろう。
食べないと体に悪いと信じ込んでいるからであろう。だから、つらくてもとにかく朝食をかき込んでいるのではないか。ヘタをすると、会社のデスクにすべり込んでからゼリー状の栄養食品を一気に胃に流し込む。
朝食を食べないとボーッとするというからがんばって食べているのに、食べても食べてもボーッとする。
あたりまえだ。
食欲がないということは体が食事を拒否している状態だからだ。体が食事を拒否しているということは、いま食べ物に入ってこられたら困るからだ。そんなときに、「朝になったから」というだけの理由で食事を詰め込むのは体をいじめているに等しい。どだい食欲もないのに食事をする動物も人間だけである。
日本人における朝食の習慣自体も歴史が浅い。たかだか江戸時代から始まった、いってみれば新しいライフスタイルにすぎない。ところがわれわれは生まれたときから1日3食なものだからこれが正しい食習慣だと信じ込み、それを疑うことさえ知らない。
朝からおなかをすかせているのはせいぜい小、中学生までで、その年齢を過ぎた私たちが朝食をとるという行為は、体の要求からくるものではない。「朝食をとらないと体に悪い」という強迫観念からきているのと、幼児期からの習慣であるため朝になると条件反射で朝食を食べたくなっているだけである。
「でも朝食をとらないと昼まで頭がボーッとするというじゃないか」
という反論がある。
脳はブドウ糖で動いているから朝食をとって糖分を補わなければ活動できないとか、だから朝食を抜くと勉強も仕事もできなくなって人生の落伍者になるんだとか、朝の便通のためにも朝食をとって胃腸の働きを活発にしなければならないとか、もっともらしい学者の意見を私たちは完全に鵜呑みにしてきた。そして、とくに戦後、日本人は朝食という致命的な悪習慣を徹底し、ガンや成人病、慢性疲労、うつ病への道を突き進んできたのである。
人間は習慣の動物といわれる。いつも朝食を食べている人がたまたま朝食を抜いたときに頭がボーッとするのは、ふだんの生活習慣が一時的に乱れ、体が混乱したことによる。朝食を抜いたこと自体が悪かったのではない。
脳は、ブドウ糖が足りなければ体内の老廃物のひとつである β(ベータ)ヒドロキシ酪酸(らくさん)を代替エネルギーとして使用するから問題ない。
便通が心配なら水を2、3杯飲んで胃腸に刺激を与えればすむことだ。
では実際に朝食抜きの生活を1週間くらい続けて、それを新しい生活習慣としたなら、どうなるか。
朝から頭は冴えわたり、体は驚くほど軽くなる。格段に集中力が出る。気分が明るくなる。駅のエスカレーターが混んでいれば、さっさと階段を飛ぶように歩いていってしまうなど、その差違は歴然で、いままであんなに疲れていた自分は何だったのかと愕然とする。
朝食を抜けば、慢性疲労は数日で完治、花粉症などのアレルギー性疾患も数ヵ月で治ってしまう。
こうした経験もなく朝食擁護論をとなえる人がずいぶん多い。
現代人が健康の根本のようにかたく信仰している朝食信心が、じっさいはわれわれの健康を根底から瓦解させていたのだ。
常識なんて、こんなものだ。天動説でさえ正しい時代があったのだから、べつに驚くことではない。
常識というと、何か普遍の真理のように考えがちであるが、しょせん大衆の多数決にすぎない。
世の中、誤った常識があふれている。「朝食は食べるべきだ」というのも、そのひとつなのだ。
1日3食がいいか、2食がいいかと聞かれたら、1食でも多く食べたいに決まっている。欲という色眼鏡が、正しい判断を妨げているのである。学者といえども、「1日3食がよいという医学的なデータが出るべきだ」と、はじめからそっちを期待して研究するのだから、正しい判断など望むべくもない。
現代の日本の栄養学は、西洋栄養学であるが、戦後日本の西洋崇拝が日本人の判断力をにぶらせているのも一因だ。
栄養学万能主義に依(よ)った誤った常識こそ、私たちの健康を破壊していることを、まず最初に肝に銘じておいていただきたい。

当サイトいち押しの良書。これ一冊を読めば他のあらゆる健康法の本がたちまち幼稚に見えてくる。
現代医学から見放された難病患者を食事療法だけで治してきた故・甲田光雄博士は、自身の体験と数万の臨床例から1日2食の 「甲田式健康法」 を確立、その普及に努めた。
新書サイズのため、とてつもない内容のこの本をいつもバッグに入れて持ち歩けるのがうれしい。これから1日2食に取り組もう、あるいは始めたばかりだという方はこの本を常時携帯し、ヒマさえあれば取り出して、覚えてしまうくらいまで読むとよい。1日2食が健康によい理論も当サイトより詳しく書かれているので確信もヤル気も増すことだろう。
甲田博士自身の言葉が少なめであることが残念だが、プロのライターが書いているぶん非常に読みやすい。この内容でこの価格は、たいへんなお買い得というほかない。
『長生きしたければ朝食は抜きなさい』とほぼ同じ内容だが、こちらは甲田博士が直接書いた本。『長生きしたければ…』が新書なのに対しこちらは一般書籍なので、本のサイズも字も大きめ。甲田博士自身の言葉が聞きたい、小さい活字はニガテという人はこちらを読むとよいだろう。
『長生きしたければ…』と異なるのは、こちらは実践者の体験談が豊富に掲載されていることである。
糖尿病、高脂血症、リウマチ、アトピーなどの難病が1日2食にしただけで続々と治っている話を読むと 「いっちょやってみるか」 という勇気がわいてくる。巻末にQ&Aがついているのもうれしい。